第43話

「どこに行くの」


 気づくと、静雄はわたしの隣にいた。わたしは唇を一旦結んで、答えた。


「あなたの薔薇園に向かってるのよ。見てわからない?」


「沙良は怒りすぎるよ。どうしてそんなに色んなものが気に食わないんだ」


「じゃあ静雄さんは満足なの?」


 わたしは立ちどまり、静雄はそれに倣う。丁度静雄の家の芝生を踏んだ辺り。すぐそこに薔薇園が見える。たくさんの薔薇の蕾。広い面積を占める多くの株に、青銅のアーチに絡む蔓薔薇。赤と白の薔薇が開いてはいるが、まだ緑が多い。淡い黄色の薔薇の蕾が、風に揺れている。


 きっと撮られている、とわたしは思った。この薔薇園を背景に、わたしたちを見ている無数の目。わたしは喉の奥に塊があるように感じながら続けた。


「カメラの向こうに世界がある限り、わたしは気に食わないのよ。何もかも。それに、わたしは、とても、醜くて……」


 言葉が途切れ途切れになる。


「お義母様や黄薔薇のようには美しくなくて、わたしは愛されない」

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