第42話

「わたしの白薔薇」


 黄薔薇が白薔薇をぎゅっと抱きしめた。とても嬉しそうだ。黄薔薇を嫌っていたはずなのに、わたしは微笑ましく感じていた。


「あなたは誰ですか?」


 白薔薇がわたしを見て、黄薔薇と同じく正確すぎる発音で尋ねてきた。その声は黄薔薇よりもいくらか低く、男とも女とも取れる、不思議な声だった。


「あの人は沙良さんよ」


 黄薔薇が白薔薇を後ろから抱きしめたまま、わたしの代わりに答えた。辺りにかすかな薔薇の香りが漂っている。多分黄薔薇の香りだ。


「とっても意地悪で、笑わないのよ」


 くすくす笑う黄薔薇を、わたしは再び憎らしい気持ちで見ていた。いや、本当に憎んでいただろう。わたしはさっと身を翻し、静雄の薔薇園に向かう。


「沙良」


 静雄の声が後ろから聞こえる。

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