第39話

スラブ民族向けチャンネルのあの少女が、玄関ホールでこの間の茶髪の少年と話している。早口で、音が複雑で、彼らの言葉は容易には聞き取れない。聞き取れても、理解することはできないだろう。少女は頬を火照らせ、はにかむように笑い、自分が話をするときは目をくるくる回して表情を変え、相手の少年が話をするときは頻繁にくすくすと声を上げる。とても愛らしい。少年はそんな少女を愛おしくて仕方がない様子でじっと見つめ続けている。やっと会話が終わると、二人は何事かささやき合いながら抱擁し、口づけを交わした。わたしは無意識にリングに触れて映像を消していた。


 数日、外に出ず「マノン・レスコー」を読んでいた。最後まで。わたしは静雄に対して気まずい思いを持っていた。


 両親との関係も、特に変わっていない。相変わらずわたしは皮一枚の下で二人を軽蔑しているし、時折それを態度に出す。義母は優しい、と思う。そこまでしても忍耐強くわたしに親切に振舞おうとしている。父は、わたしに苛立っているだろう。けれど言葉に出して非難したりはしない。

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