第37話

「そうですね。そうなれるといい」


 義母はお茶を載せてきたお盆を手に持って、部屋を出た。ドアが完全に閉まると、わたしは静雄をにらんだ。


「いいのよ。わたしと彼女を無理矢理仲良くさせようとしなくても」


 静雄はいつもの困った顔をわたしに向ける。


「仲良くすべきだよ。ゆかりさんは何も悪いところがないし、沙良を嫌ってもいないだろう?」


 彼女が美しいからわたしは嫌いなのだと言いたかったが、わたしがますます惨めになりそうで、やめた。


「彼女だって不安なはずだよ。過去の記憶がなくて、いきなりここで人の妻と母親をやるように仕向けられたんだから。家族になった沙良が仲良くしなかったら、彼女はどうなるんだ」


 わたしは生母に置いていかれたのだから、いいのだ。わたしは新しく来た義母を嫌っても、仕方ないのだ。そう言ったら静雄に嫌われるだろうことはわかっていた。

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