第35話

静雄は再び床を見ている。ヒト薔薇の話をしたいんだ、と小さな声で言う。わたしはその話題にはあまり興味がなかったが、彼はわたしの疑問に答えるつもりはなさそうなので、黙って聞くことにした。


「実はね、おれはヒト薔薇が苦手なんだ」


 わたしは彼を見た。彼は曖昧な笑みを浮かべ、次に真顔になり、そうなんだ、と言った。


「薔薇は人の手でその姿を変えられながら遺伝子を残してきた。このこともおれは引っかかってる。その引っかかりがおれを薔薇に引きつけるんだと思う。でも、ヒト薔薇はやりすぎだ。あれは人造人間に近いよ。だって、話すし、走るし、考える。ヒト薔薇が作られた、そのこと自体におれは恐怖を覚えるんだよ」


「怖いの?」


「うん。あれは思い出させるよ。あれはまるで」


 ノックの音がして、ドアが開いた。驚いていると、義母が顔を出した。

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