第33話

「黄薔薇が育ててるよ。いいの?」


 静雄はわたしの部屋の赤いソファーに座り、マホガニー製の椅子に座っているわたしに弱々しく笑いかけた。わたしは遠すぎて見えない黄薔薇の池のほうを窓から見遣り、


「いいわ」


 と答えた。少し緊張していた。静雄がわたしの部屋に長くいるのは、極めて珍しいことだったからだ。静雄のほうも落ち着かなげに姿勢を変えながら、きょろきょろとわたしの部屋を見ている。


「どうせ水耕栽培の池に入れておけば、黄薔薇のように育つんでしょう?」


「そうだね」


「気になるんなら静雄さんがわたしの代わりに世話をしてくれればいいじゃない」


「うん」


 沈黙。静雄は床を見つめている。何か言いたいことがあるようだ。わたしは何かを期待し、その何かの正体がわからないまま、静雄をぼんやりと眺めた。静雄の手は相変わらず傷だらけだった。わたしはそこからあるものをイメージした。

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