第29話

「何黙ってるの」


 静雄は微笑みながらわたしたちに近づき、黄薔薇の体に触れた。黄薔薇は当たり前のように彼に笑いかけて、されるがままになった。彼女の体についた虫や病気を探すためだとあとで気づいたが、わたしは少し泣きそうになった。彼は黄薔薇のほうを大切にしている。そう思い込んでいたからだ。彼は黄薔薇の体の点検を済ませ、彼女に向き直った。


「きれいになったね、黄薔薇」


「はい、わたしはきれいになりました。前よりますますきれいになりました」


 池の水に映し出される彼女の姿はさぞかし彼女を満足させるものだろう。


「沙良は大事にしてくれてる?」


「沙良さんはわたしのことが嫌いです。わたしは美しいのに、どうしてでしょう」


 静雄は驚いた顔をしてわたしを見た。わたしは森を見ていたが、その視線がわたしにぶつかると、唇をぎゅっと結んだ。静雄がわたしに近づく。

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