第28話

「あなたたちヒト薔薇には、魂がないのよ」


「タマシイ?」


 黄薔薇が少し眉間を寄せた。わたしは暗い勝利の笑みを浮かべ、うなずいた。


「人間にも小さな虫にもあるもので、植物にはないものよ。それがないと生きていることにならないわ。それなのに、そんなことを考えるなんて変よ」


 わたしは次の瞬間の黄薔薇の傷ついた表情を、待った。しかし彼女はそんなことを意に介してはいなかった。大きく笑って、こう言ったのだ。


「わたしはタマシイがなくても楽しく生きていけます。どうしてあなたはタマシイがあるのに生きていないようなのですか?」


 わたしは黄薔薇を叩こうと手を振り上げた。しかし、すぐにやめた。遠くに静雄の姿が見え、こちらに近づいてきたからだ。わたしは黙り、黄薔薇も黙った。彼女はただ、池の水を足で蹴飛ばしていた。

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