第24話

「沙良さんはちゃんとお勉強、してる?」


「ええ」


 わたしはいつものように優しい声で答えた。


「やっても全く意味のないことを、わたし、してます」


「沙良さん、お勉強は意味がなくなんかないわよ」


「ここから出られないのに、意味なんて」


 父がわたしをじろりと見た。父はわたしたちがここに閉じ込められているという事実を言葉に表すことを忌み嫌う。自分でも忘れたいことなのだろう。


「沙良さん、いつどこのチャンネルに売り渡されるのかわからないのだから」


 義母までもがこう言ったので、父は目を剥いた。わたしは義母が誰よりもそのことを実感していることを思い出して、少し反省した。


 義母は過去の記憶を持たない。ここに来る以前の記憶が全くないのだ。きっと、こんな風に上品な奥様然としているから、このチャンネルに呼ばれたのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る