第12話

父と生母、父と義母。彼らのことを思うからだ。そしてわたしのことも。


 彼らは諦めてしまったのだろうか。わたしは諦めたくない。自由な愛を、諦めたくない。与えられた愛を受け入れる余裕など、わたしにはない。


 愛。


 少し、可笑しくなる。わたしに、愛なんて現象が起こるはずがないのに。わたしは、愛を与えられることすらなさそうだ。


 生母が教えてくれた。インターネットではわたしたち家族のことが語られていることを。わたしの後をついてくる、あの丸い小さな物体は何であるかということを。


 わたしはそのころ、このゆったりとした世界が気に入っていた。自分というものを明確に意識すらしていなかった。何が何であるのか、気にしていなかった。


 あのね、沙良さん。


 おぼろげな記憶の中の生母が語りかける。顔は覚えていない。コンピュータに入っている記録を見れば、静止画も動画もいくらでも見られるけれど、わたしはあえてそうしない。生母の記憶は美化も更新もしてはいけないと決めている。

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