第2話

一年余り前のことから話そう。わたしは十四歳で、静雄が十七歳。義母が孕んでしばらく経ったころの話だ。


     *


 ああ、薔薇の季節だ、と思った。


 草木が芽吹き、小さな花を咲かせる。わたしはシロツメクサが好きだ。とても可憐な感じがする。わたしの家の向かい、森の近くの、庭なのか庭でないのかはっきりしない場所に、それらは平べったく咲いている。クローバーの濃い緑が目に鮮やかだ。対照的に、森は暗い。落葉樹の根元の腐葉土が、湿った気配を漂わせている。たまに中から茶色くて前足の長い野兎が飛び出したりする。狸や狐もいると、静雄から聞いたことがある。小鳥が鳴いている。鶯が鳴くのはいつだろうか。わたしは少し待ち遠しい。それでいて、鳴きだすころにはどうでもよくなっていたりするのだ。

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