第25話

 糺はその呪い同然の力を活かし、ある武将の隠密として活動をするようになる。


 敵の武将に捕えられて自白を強要されても、毒をあおれば仮死状態となり、死んだとみなされる。

 そして快復すれば活動を再開した。


 永き時を生きる間、糺は数十年に一度名を変えた。本当の名は忘れてしまい思い出すことが出来ない。

 

 戦乱の時代が終わり徳川の治世になっても、糺は陰でひっそりと生き続けていた。

 依頼を受けて特定の人物の身辺調査をして糧を得ていた。やがて裏社会の人間と繋がりを持つようになる。


 明治の世になり、戸籍法が出来た頃には戸籍の偽造が容易になった。


 糺は死の訪れを夢見て日々を送っていた。




 不老の身となって千年と数百年が経過した。時代は昭和に移り変わっていた。


 糺は小さな漁師町に居を構えた。その町に思い入れはないが、海が綺麗だからと言うふんわりとした理由で住まうことを決めた。

 そこで糺は翻訳の仕事を生業としひっそりと暮らしていた。


 糺は妻を看取ってから人を愛することを辞めたが、ハナという少女に出会い、恋に落ちてしまった。


 初めは可愛らしい幼子の彼女に微笑ましい感情を抱いていたが、時が経つにつれて成長し大人の女性に変貌する彼女に惹かれていった。


 それでいて偏見にとらわれない聡明で、真っ直ぐな性根にますます強く心を奪われていく。


 糺は心が読める訳では無いが、長く生きた経験は、人の機微に敏感にさせた。

 この子も自分を異性として見ているのだ……と。

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