第21話

 ハナと糺は病院を後にし、糺の運転で車に乗っていた。


 昨今の車はこんなに静かなのか、隔離され続けていたハナは、外の文明の進歩に内心驚いていた。

 同時に糺と一緒にいる今、夢見心地になっていた。


 車はどこへ向かっているのか分からない。糺は車を走らせながら話をしてくれた。


 今は山階糺ではなく別の名で生きていること、企業を監査する会社に勤めていること。未だに独身を貫いていること。


「僕は製薬会社に潜り込んだけど、まさかハナちゃんがここにいるとは思わなかった。きみに惨い実験を強いる輩を殺したくて仕方なかったよ」


 穏和な糺から“殺す“という単語が出て来たことに、ハナは目を見張った。


「証拠を集めるのに時間が掛かってしまって、助けるのが遅くなってごめんね」


 ハナは糺の言葉から、リークしてくれたのは彼だったのでは……と察した。


「大丈夫ですよ。始めはボロボロになるんですけど、すぐに元通りに再生されるので」


 今では傷一つない腕を糺に見せる。


「ハナちゃんも……僕と同じ不老の体質なんだと思う」


(糺さんも私と同じ体質だったんだ……)


「すると、糺さんって本当はいくつなんですか? 二十代前半か半ばの間くらいに見えますけど」


 すると、糺は困ったように笑う。そして言いにくそうにハナに教えてくれた


「……千と五百くらいかな。十の位から下は正確には覚えていない」



(千!?)



 想像以上に年上だったことに、ハナは驚きを隠すことが出来ずにいた。


(私の十倍以上長く生きていたなんて……)


「今まで生きていて、私達のような不老の体質を持つ人に出会いましたか?」

「いや、ハナちゃん以外にいなかったよ」

「そうですか……」


 不老を解消するヒントは中々見つかりそうにないと悟り、ハナはがっくしと肩を落とした。





「着いたよ」


 一時間ほど運転していた車は、十階建てのビルの地下駐車場に停まった。


 糺に連れられて、エレベーターに乗り、八階にある部屋へ向かう。

 足を踏み入れた室内は、リビングとダイニングキッチン、三つの部屋で構成されていて、ファミリー向けほどの広さがある。


「ここは?」

「僕が今暮らしている家だよ。今日からハナちゃんも暮らすんだ」

「え!?」


 糺の突拍子もない発言に、ハナは素っ頓狂な声をあげてしまった。

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