第22話

「いいんですか……?」

「いいんだよ……もう誰にも邪魔させない」


 糺はきつくハナを抱き締め、触れるだけの口付けを落とした。


 戦時中、糺が出征する前した時以来の口付けだった。


 それ以上の行為もしたし、夫の潔との間に四人の子をもうけたというのに、ハナの頬は初々しい乙女のように赤らめてしまう。


「ハナちゃん、顔が赤い……可愛い」

「可愛いなんて嫌です。恥ずかしい……中身はおばあちゃんなのに」


 糺と比べるとかなりの年下だが、それでも世界一の記録に載りそうな超高齢であることに変わりない。


 むっと口を尖らせて拗ねるハナに、糺を小さな笑い声を零した。


「僕だって相当なおじいさんだよ。本来なら即身仏そくしんぶつ……ミイラさ」

「糺さんはいくつになっても、関係なく素敵な人ですから……っ」


 夫と添い遂げながらも、片時も糺を忘れられなかった。

 百と数十年経っても、その気持ちは変わることなく確かに存在している。


「ハナちゃん、愛してるよ。これからも永遠に近い時を一緒に生きてくれるかい?」


 花のように綻ぶ麗しいかんばせに釣られて、拗ねていたハナの顔は緩んで蕩けそうな笑みに変わっていく。


 長らく忌々しい呪いと思っていた不老は、糺によって祝福に変えられた。


「私も愛しています。死ぬまで糺さんの傍から離れないことを誓います」


 ハナは不老の身にしてくれた神や仏に感謝をしながら、背伸びをして自ら糺の唇を己のものと重ね合わせた。





(完)

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