第20話
ハナは顔を俯かせ、今身にまとっているパステルブルーのワンピースの裾を両手で強く握り締めていた。
「その知り合いは、“山階糺”という名の男かい?」
第三者であるはずの彼から聞いたその名に、思わず顔を上げる。ハナの双眸が大きく見開かれた。
「ど、どうして、あなたが、ご存知なのですか?」
戸惑いを隠せない。
どうして己よりずっとずっと年下の若い彼が、その名を知っているのか。
すると、彼は目を細めて柔和にハナに微笑みかけ、内緒話するように耳元で囁いた。
「――――僕が百年以上前に名乗っていた名前だからね」
その言い方は、まるでハナのように老けることなく長く生きていたようなものいいであった。
(こんな都合のいい話、あるの? 私以外にいないと思っていたのに……)
「あなたが、糺さん本人と解釈していいのですか……?」
その問いかけに糺は無言で頷いた。ハナの双眸は次第に潤み、眦に大粒の涙を溜めていた。
「ひっ、くっ、うぅ……っ」
年齢的に相当な長寿のはずだが、ハナは堪え切れなくなり幼子のように嗚咽を零していた。
ハナは両手を彼、もとい糺に向けて伸ばすと、彼はそれに応えるように抱き締めた。
「会いたかった、ずっと、あなたに会いたかった……!」
あの頃と変わらない体温と匂いが、ハナの涙腺を更に刺激を与えていく。
「僕も会いたかった……ハナちゃん、これからはずっと一緒だ」
糺の顔は抱き締められて見えなかったが、耳元で囁かれた声は微かに震えていたような気がした。
(これからは糺さんの傍にいられるのね……)
二人は百年と数十年振りの再会を果たしたのだった。
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