第18話
ハナが目を覚ました時、視界に入ったのは、研究所とは違う白い天井だった。
(ここは病室……? 研究所とは違う……)
ハナは戸惑いながら当たりを見渡すと、ベッドの上にナースコールが置いているのを見つけた。それで呼び出すと程なくして看護師が入ってきた。
「山口さん、気分はどう?」
「少しだるいです。ぼんやりしています」
正直に状態を説明すると、看護師はハナに説明してくれた。
「あなた三日間眠っていたのよ」
(そんなに眠っていたの?)
最後の記憶は、糺に似た青年に抱きとめられていたところだ。
後ほど医師が病室に現れ、ハナの状態について説明をしてくれた。ハナは重度の栄養失調であった。警察が研究所に入ってきた日から一週間飲まず食わずだった。
医師の説明から、ハナはあの真っ白な部屋に一週間閉じ込められていたことが分かった。
看護師も医師も不老のことについて尋ねることはなかった。
「あの、ここに入院させてくれた人は誰ですか?」
「ああ、名前は言えないけど、製薬会社の監査を担当した会社の人だよ」
「そうですか」
(その人に会えるかしら。お礼を言いたい)
ハナを研究所から解放し、自由を与えてくれたから。
夕食は重湯が出された。
(戦時中を思い出す……)
終戦の間際の重湯は、わずか数十粒のお米で作られたほぼ水だった。それを家族で分け合って食べたものだ。
ひもじくて、お腹空いたとめそめそ泣いていた弟妹を宥めていた。
食べられる野草も採り尽くされて、名前の知らない謎の草を茹でて食べて凌いだこともあった。
ハナは重湯を口にしながら、今後のことを考えていた。
「何処で死のう……」
海に身を投げて、魚の餌になろうか。崖に叩き付けられれば流石の不老の身だとしても息の根を止められるだろう。
それとも、樹海に入って首を括ってしまおうか……。
(戸籍はあるから、遺体が山口ハナだと分かるようにしたり、遺書残せば死亡届は受理される……よね? 法律のことはよく分からないけれど……)
目覚めた初日は、死に場所を考えながら一夜を明かした。
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