第13話

「……私は……糺さんが、好きです……」

「ハナ、ちゃん……」


 自覚してから長いこと秘めていた想いを吐露した時、ハナの腕の中にいる糺の目が見開かれていく。


「周りがどれだけ非難しても、私はあなたのことを愛しています……それだけは忘れないでください」


 そう告げた後、ハナは抱擁を解いて立ち上がった。そして震える手でおもむろに浴衣の細い帯を解き始めた。

 浴衣は畳の上に滑り落ち、衣擦れの音だけが居間に広がっていく。


「ハナちゃん、着るんだ。風邪を引いてしまう」


 糺は慌てた様子で浴衣を拾い上げ、ハナの肌を隠すように羽織らせるが、ハナは袖に腕を通すことを拒絶した。


「私に触れてください……」

「早まらないで……」


 婚前交渉は、この田舎では醜聞になる。ハナ自身それを十二分に理解していた。

 例え親から勘当されても構わないと思っていた。喉から手が出るほど糺との繋がりを欲していた。

 もう二度と会えなくなるなら、その前に糺の存在を己の体に刻み付けて欲しいと希った。


「ねえ……触れて……?」


 ハナは擦り寄り、ささやかな膨らみを糺の腕に押し付ける。


「あなたの子どもが欲しい……」


 耳元でそっと囁いた。

 思いの外、媚びるような声が出てきたことに内心驚いていたが、なるようになれと後先を考えることを放棄した。


 例え糺が帰ってこなくなって、嫁の貰い手がないまま独り身になったとしても、ハナに後悔はなかった。


 真っ直ぐ見つめていると、糺は片眉を下げて微かに困ったような笑みを浮かべていた。


「途中で泣いて拒んでも辞めてあげないから」


 そう囁いた刹那、糺はハナの華奢な体を抱き上げた。ハナは突然のことに驚いたが、糺の肩にぎゅっとしがみついては、「やめないで」と小さく零した。

 糺はハナを抱き上げたまま居間を後にした。程なくして開いたままの襖の先にある四畳半ほどの和室に辿り着いた。

 和室に小さな文机と敷かれている一組の布団がある。

 初めて入る場所に、ハナは暴れる鼓動を抑えられなかった。


 そっと布団の上に寝かされ、己の上に糺が跨る。


 彼の唇がハナのものと重なり合った。ハナにとって初めての口付けだった。


「僕も、ハナちゃんが好きだよ」

「……っ」


 鼓膜を震わせる甘さのある声に、ハナは体の痺れを自覚した。


「ハナちゃんはいつでも真っ直ぐで、僕に対する態度を変えることなく笑いかけてくれたね。そんなハナちゃんに癒されて、強く惹かれていたんだ」


 こんな奇跡があっていいものだろうか。

 ハナは夢見心地のまま、うっとりと糺を見つめていた。

 

「僕は結構年上だから、ハナちゃんにふさわしい男じゃないよ。本当にいいの?」

「私は、糺さんがいくつでも好きですから……」


 糺は引っかかっただけのハナの浴衣を剥ぎ取り、乱暴に放り投げた。

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