第8話
ハナの元に現れたのは、一人の青年だった。歳は二十四、五ほどに見える。
背丈は小柄なハナより二十センチほど高い。
「大丈夫ですか?」
「……!」
ハナは彼の顔を見た途端、金縛りにあったように動かなくなった。
(糺さん……!?)
黒檀のような黒髪は女性のように艶があり、傷みがない。ハナを映す形の良い二重瞼の双眸は日本人離れした青色だ。
彼を見た者は満場一致で美しいと評するだろう青年だ。
恐ろしいほどの美しさだと言うのに、春のように暖かで、穏和な雰囲気をまとう不思議な印象を受ける。
「あなたは山口ハナさんですね。私はあなたに危害を加える者ではありません。もうすぐ救急隊員がやって来ますから、楽になってください」
彼の説明が頭に入らない。
それほどハナの脳内は混乱していた。
(私、動揺してる……だって、彼があまりにも糺さんに似ているから。子孫かしら?)
彼を見つめたまま硬直するハナに、彼は目を細め、ハナの華奢な体を腕の中に閉じ込めた。
体に感じる温もり、彼の匂いがハナを包み込んでいる。
ハナは強烈な懐かしさと狂おしいまでの恋しさを見出していた。
水道の蛇口を捻ったように、涙が勝手に溢れて頬を濡らしていく。
(こんなことってあるの? ありえない……あの人は年齢的にとうの昔に死んでいるはず)
「もう二度と独りぼっちにさせないから――――ハナちゃん」
(あの頃と同じ呼び方……っ)
その時、頭の中にある何かが弾け飛ぶような感覚に陥った。そして、ハナの過去が濁流のように流れ込んできた。
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