番外編 つぼみ

第90話

「そこの新入り、肩揉んで」


「そっち終わったら、私の前掛け繕って」



人買いが出入りしていた貧しい家を飛び出し、その器量から運良く大奥での奉公が決まったみりお。


華やかな大奥女中への期待と共に奥入りしたが、配置されたのは雑用係の御三の間。


後ろ楯のない娘としては、申し分の無い奉公先である。


しかしそこは大奥。


女の世界ならではの陰険ないじめがあったという。



「みりお、早ようして!」


普段、奥女中達に顎で使われている御三の間の女達。

自分より格下となる新参をいたぶる事で、日頃のうさを晴らすという悪習があった。


「貴女方のお世話は、私の務めではないはず」


まだ幼く気の強いみりおは、女達に従わなかった。


端正な目鼻立ちは女達の嫉妬を煽り、着物を隠されたり、水桶を運ぶ足元を掬われたりと、悪質ないじめを受ける日々。




その夜、最後に湯を使ったみりおが浴室の片付けを終え大部屋へ戻ると、全ての灯りが消されていた。


いつもの事だと思い、壁伝いに自分の寝床へ潜ろうとすると、突然起き出した女達に押さえ付けられた。


「いやっ、何を!」


暗い部屋で、意地の悪い笑みを浮かべる女達。


「生意気な娘に、分からせてやろうと思ってな」


腕を掴む者、寝間着の裾を開く者、何人居るのか分からないが、部屋の全てが敵だと悟った。


悲鳴を上げようとすると、口を手で押さえられた。

その手に渾身の力で歯を立てると、頬を叩かれた。


「やっ・・誰か!」


まだ幼い胸をまさぐられ、恐怖にもがくが更に身体を押さえ付けられる。


「やめ・・っ」


暗い部屋で、押し殺したみりおの呻きと女達の含み笑いが漏れる中、廊下に面した襖が開いた。


「お前達、何をしている!」


灯りを持って現れたのは上級女中なのか、美しく結い上げた髪と白い顔がみりおの目に入った。


「助けて!」


灯りに照らされた女達が平伏す中、乱れた寝間着のまま、みりおは女中へとすがり付いた。


「みりお!」


女中が誰なのか分かっている女達は、みりおの無礼に声を上げる。


「こういった新参苛めがあると聞いてはいたが」


不快感を顕にする女中の声に、女達は更に額を畳に擦り付ける。


「まだ若い娘に、なんという事を」


女中は着ていた羽織をみりおの肩に掛けると「ここへ」と促し、大部屋の襖を閉めた。

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