第82話

予定の法要を終え、明日にも帰京をと旅支度を整えていた夜・・・


未涼が身を寄せる寺に、壮の使いの一行が現われた。


遅い時刻、予告もなくの来訪には、さすがに寺の住職も顔を曇らせる。


寺を訪れるのは幾度目かになる早霧は、庭先で未涼を呼び付けた。


「実壮院様の命により、未涼殿をお迎えに上がった」


未涼は不快感を露わにし、低い声で対峙する。


「その話なら、何度も断ったはずや」


早霧は未涼を見据え、冷たい笑みを浮かべる。


「実壮院様の命は上様の命と同じ、それでも否と?」


早霧の後ろに控える役人達の姿を捉え、寺の尼僧達は恐怖に震えた。


扇子を片手にした早霧は、座敷に上がり込み、座り込む僧侶達を見下ろす。


怯える僧侶の中でただ一人、艶然と早霧を睨み付ける未涼の瞳にゾッとする。


「それなら、命に背く私を罰したらいい」


薄ら笑いすら浮かべながら、全く動じない。


未涼は僧侶達を部屋から下がらせ、数人の侍女と共に部屋に残った。


見上げて来る美しい僧侶の姿に、早霧は残酷な笑みを返した。


「・・そなたは罰せぬが、従わなければ」


役人が剣を抜き、侍女の一人に詰め寄る。


侍女の悲鳴に、さすがに顔色を変えた未涼が、庇うように間に入る。


「やめてや!嘘やろ・・なんで私なん?」


未涼の悲痛な表情から目を背け、早霧は「早よう籠へ」と促す。


役人に取られた腕を振り払った未涼は


「いやや触るな、斬れ!私を殺せ!」


抵抗する未涼に苛立った早霧が役人に合図をすると、侍女に向かい剣が振りかざされた。


引き裂くような悲鳴に、未涼は立ち上がり「分かった!」と叫んだ。

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