第68話
将軍を埋葬した寺院で落飾の儀式を受け、ひろむは院としての新たな名を賜った。
形式上、尼僧のような白い装束を身につけたひろむは「頭が軽くなった」と、短く切られた髪を気にしていない様子だった。
魂が抜けてしまったように寂しげではあるが、今までと変わらずに笑うひろむに、もりえたちは胸を撫で下ろした。
院としての毎日は、朝夕と行われる供養の為仏間に参じる以外の時間は、退屈なものだった。
大奥全体の住居や人員の異動が済んだ頃、瀬奈が表舞台から去る事が公にされた。
真咲と共にひろむの部屋に挨拶に訪れた瀬奈は、吹っ切れたような明るい表情をしていた。
「この度、大奥総取締代理を務めさせて頂く事になりました」
改めて深く頭を下げる真咲。
次の将軍と、時期に迎えるであろう御台所のお世話は真咲を中心に采配が行われていく。
瀬奈は諸国を見て回る役目があり、奥にある屋敷と外を行き来する日々になるという。
「次の御台様が真咲の手に負えないような方なら、戻るかもしれませぬが」
そしてまた、初夜の手解きをするのだろうか。
ひろむは何も言わず、瀬奈を睨みつける。
その意味を読み取ったかのように笑った瀬奈は
「・・あなたのようなお方はそう居ませんから、大丈夫」
大奥の中心は新たな将軍とその生母、その後迎えるであろう御台所へと移り変わる。
ひろむと瀬奈は、お互いへの想いを告げないまま、大奥の表舞台から静かに去った。
第九話 おわり
次で第一部完という感じです。
二人の関係はとりあえずはここで終わるので、次はエピローグ的な感じかな。
2011.6.30
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