第67話

やっと見れた瀬奈の表情が、思っていた冷たいものではなく、熱っぽく優しい事が嬉しくてひろむは両腕を回す。


髪を撫でながら、瀬奈は愛しげに何度も口付けを繰り返す


「この長い髪も最後ですね」


ずっと欲しかった瀬奈の温もりに包まれながら、ひろむは呟く


「今日で全て最後や」



本当に伝えたいのはそんな言葉ではなかったが、「最後」それだけが本当だった。


このまま本当に全てが終われば良い、そう思いながら二人は抱き合った。


出会った日からの出来事全ての答えは一つで、お互い痛い位に分かっていたが口には出さない。


想いが口から零れそうになるのが苦しくて、言葉を忘れる程に強く求め合う。


ひろむの声と涙が枯れるまで、何度も愛し合った。

そうしていないと、余計な言葉が溢れてしまうから。



空が白々とする頃、意識を飛ばしていたひろむをそっと揺り起こすと


「お部屋へお戻りにならないと」


瀬奈はひろむの夜着を整えると「立てますか?」と。


差し出された手を取り、立ち上がろうとするが足に力が入らず崩れ落ちるひろむ。


自分の状態が分からず、問いかけるように瀬奈を見上げる。


「まだ熱くて、力が入らへん」


何度も立とうとするが、痺れて疼く身体が思い通りにならずひろむは泣き出した。


戻りたくないと、子供のように泣くひろむを優しく抱き背中を擦る。


「真咲がここまで探しに来ますよ」



結局瀬奈に抱き上げられ部屋まで連れられた。

真咲やもりえ達は一睡もせずにいたが、息を潜め部屋から出てこなかった。


寝具の上にひろむを寝かすと、その頬を両手で包み込み小さく囁く


「少しでも眠って下さい、そうすればお身体も戻ります」


そう言い残し背を向ける。

襖を開こうとする瀬奈の背中にひろむは声を掛ける


「瀬奈」


振り向いた瀬奈とひろむの視線が絡み合う。


息が出来なくなるほど見つめ合い、胸が壊れるほどに痛む。


お互い言葉を発さないまま時が止まり、そして瀬奈は微笑みながら背を向けた。

閉じられた襖を見つめ、ひろむも笑った。

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