第63話

ゆうひは夢か現かまどろみの中、心を通わせあった少女に告白する。



『知っているのに伝えない私は罪だろうか』


『いいえ、ゆうひ様は悪くありません』


『これくらいの意地悪は許されるかな』


『・・・ゆうひ様は可哀相です』


『いや、私は幸せだったよ・・・』



昏睡状態に陥ったゆうひを、ひろむはじっと見守った。


何日も眠っている様子のない瀬奈と共に、ゆうひの手を取りながらその時を迎えた。


最後まで穏やかに、眠るように逝ったゆうひを、ただ信じられない思いでひろむは見送った。


初めて目にする瀬奈の涙から顔を背けつつ、自分を心から愛してくれた人の手をいつまでも握り続けた。




将軍の死。

悲しみに暮れるいとまもないまま城は慌しくなる。


葬儀と、将軍の遺言による後継者への政治的な手続き。

大奥では女中の配置替えなど、喪が明けるのを待たずに動き出していく。


改まってひろむの部屋に訪れた瀬奈と越乃から、数日に渉る葬儀の内容やその後の事について説明があった。


将軍の埋葬が終わると、正室や側室達は落飾の儀式を受け、将軍の菩提を弔うためにその後の一生を捧げる。


無論慣例に従いひろむもそのつもりでいたが、里へ帰るなり好きに生きる事を許す、というゆうひの遺言があるとの事。


ひろむは耳を疑い、聞き返す


「上様が、そう仰ったのか?」


「もちろんです」


ひろむは、一度も嘘をつかなかったというゆうひの言葉に救われた。

だから最期に、ゆうひにだけは本当の気持ちを話した。


それなのに、里へ帰っても良いとは、伝わらなかったのか。


「私の居場所はここだけです、出るつもりはありません」


越乃は悲しげに顔を曇らせる


「まだお若い御台様、この後ずっとお独りのまま、大奥で・・・」


「分かっている」


何も言わない瀬奈に視線を落とし、ひろむは続ける


「お前達はどうなるのだ?」


「私は将軍付きを外れますので、しばらくゆっくりしますよ」


かつて、将軍代替わりの際には大奥の女中も総入替えされたという。

今ではそれはなくなったが、新しい将軍や御台所の為の住居の建て替えと共に、多少の人員の入替えは行われる。


「御台様はお部屋が変わりますので、お引越ししていただきます」


「そうだな」


「・・・」


「瀬奈は、どうするんだ?」

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