第八話 炎

第53話

「御台様におかれましては、今朝もご機嫌麗しゅう・・・」


「麗しくはないわ」


朝・・・

いつもと変わらず挨拶に現れた瀬奈に、平静ではいられないひろむ。

供を連れず、部屋に二人きりである事に妙に動揺してしまう。


「身体は・・・何ともないのか?」


「はい」


何事もなかったことで、毒殺の疑惑は消えたが、真実を知らない事にはどうにも気持ちが治まらない。


その話には触れたくない様子で、視線を反らす瀬奈。


薬の正体を教えて欲しいと懇願すると、硬い表情が少し揺らぐ。

困ったような、悲しげな表情でひろむを見つめ「聞いたら後悔しますよ」と。


それでもと詰め寄ると、瀬奈はひろむの耳元で小さくその内容を話した。


全く、予想の範疇を超えた話にひろむは硬直した。

話がよく理解できず、ポカンと瀬奈を見上げる。


御台所として嫁ぎ、当然のように世継ぎを望まれているものだと思っていた。


そのためのゆうひの奥通いだと思っていたし、寝所で瀬奈がちらついてしまう自分が後ろめたかった。


そんな薬を瀬奈に飲まされながら、ゆうひの元へ差し出されていた。

・・・毒と聞かされたほうがマシだったかもしれない。


黙ったまま静かに見つめてくる瀬奈の視線が優しくて、勘違いしそうになるのが怖かった。

胸が詰まって涙が出そうだったが、瀬奈の前では泣きたくない。


素直になれず、つい睨みつけてしまう自分がもどかしくて堪らなかった。


「この事を、上様が知ったらどう思われるか・・・」


「・・・・」


瀬奈の表情が歪む。

悲しげな、何か言いにくい事を話すような複雑な顔・・・


ひろむは嫌な予感にゾッとする、そしてそれはすぐに確信に変わった。


「まさか上様も・・・?」


「はい、ご存知でした」

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