第52話

先代の大奥総取締役に拾われた瀬奈は、幼い頃から大奥で過ごしてきた。


長いこと城へ上がらず、乳母の元、大奥で暮らしていたゆうひとは、歳が近い事もあり対面する機会も多かった。


純粋過ぎるが故に、上手く周りと馴染めず誤解を受けるゆうひが、気がかりだった。


無表情で冷たく見えるが、思慮深く優しい性格が、瀬奈は好きだった。


先代の将軍に仕える身でありながら、ゆうひの力になりたくて、瀬奈は力を得たいと願った。


その美貌と処世術とで、使える手は全て使った。

誤解も受けたし、敵も作ったが決意は揺らがなかった。


元々その才覚を見抜き、後継者にと考えていた先代の協力もあり、瀬奈は異例の若さで総取締役の地位を得た。


将軍をはじめとする男達の信頼も厚く、引退した先代をも凌ぐ権力を手にした。


瀬奈にしか心を許さず、縋り付くゆうひを突き放し、先を見据えるよう諭した事もある。


それでも、運命に翻弄され身をすり減らしていくゆうひの姿に、自分のしている事が正しいのか分からず迷いもした。


生きる事に興味を失っていたゆうひが初めて見せた執着。

まさか同じ人を愛してしまうとは思わなかったが、それでもひろむの元で目を輝かすゆうひが嬉しかった。


ひろむを欲しい気持ちは、抑えられない程になっていたが、二人の幸せを願う気持ちも本物。


ゆうひの奥泊まりの知らせを受けるたびに、嫉妬で震えた。

ひろむの食事に薬を混ぜながら、襲う吐き気に苦しんだ事もある。


想いを伝えられないのなら、亀裂が入ったままでいい。

憎悪でも、向けられないよりはましだ。



容態が思わしくないのか、眉間にしわを寄せながら眠りにつくゆうひ。

身分や立場は違うが、同士のような愛情がある。


その想いが分かるだけに、初めて出会ったであろう愛しい人を、奪う事は出来ない。


瀬奈は胸の中だけで涙し、毅然と立ち上がると、ひろむの部屋へと向かった。



おわり



お待たせしました、第七話です。

お色気シーンもないし、どうにもすっきりしませんが、そんな時もあるかなと。



今後の予告


「お嬢さん、すみません!」

大和は抵抗するひろむのみぞおちを突くと、崩れ落ちるその身体を抱え走り出す。

そこへ、立ちはだかるように現れた女の影に、大和は息を呑んだ。



第七話 おわり

2011.4.18

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る