第51話

政治的な問題から、正室は将軍の子を産まないよう計らわれる。


公には出来ない、大奥総取締や御殿医の役目の一つであった。

その薬は身体への負担が大きい事もあり、大奥では側室へのお渡りが歓迎されていた。


ひろむの食事に薬を混ぜた日には、必ず解毒作用のある茶を飲ませていたが、瀬奈の動向を疑い始めてから、真咲は瀬奈の指示の茶を出さなかった。


ゆうひの連日の奥泊りも想定外で、瀬奈の意図に反して薬の負担がひろむの身体を蝕んだ。


「お前が嫉妬から言っていると思ったのだ」


御台所にそうした薬が使われる事は知っていたが、それが身体の負担になるとは思っていなかったゆうひは、瀬奈に責められ項垂れた。


「それもなくはありませんが」



ひろむが倒れたと聞かされ、瀬奈は酷く動揺した。

守れなかった後悔と怒り、ただ無事で居て欲しいという想いで寝所に駆けつけた。


ゆうひに夜着を乱されたひろむの姿を見るのは辛かった。

それでも、かすかな呼吸を確かめると力が抜け、その場に倒れ込みそうだった。


「世継ぎのためではないと分かったら、ひろむはもう私と寝てはくれないだろうな」


「そうですね」


「お前の思う壺か」


「御台様は、私に毒を飲まされたと思っておいでです」


「本当の事を伝えないのか?」


瀬奈はゆうひから目を反らし、呟いた。


「どちらでも同じ事です」


「毒と薬では、話が違うだろう」


「・・・あなたに差し出さなければならないなら、そうしてしまいたい思いはありました」


「・・・悪者だな、私は」


瀬奈は優しく微笑み、首を振る。


「いいえ、最初から、悪者は私だけです」


二人は重い溜息をつく。

ふと思い出したように瀬奈が切り出す。


「例の男、動きを見せたらいかがなさいますか?」


倒幕一派の手のもの、ひろむを救うため城に忍んでいる大和の事だ。


「姿は見たのか?」


「新しい庭師の中の一人と聞いておりますが、直接はまだ」


「目を離さずに泳がせ、捕らえる前に一度連れてこい」


答えずに、瀬奈から目を反らすゆうひ。


そんな顔を見るのは初めてで、瀬奈は遠くを見るように目を細めた。

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