第49話

「御台様、このような場所で何を?」


瀬奈はひろむの手の中の薬包を目にすると、一瞬眉根を寄せたが、何も言わず向かい合う。


ひろむは身体の震えを抑えるために、合わせた打掛をぎゅっと握りしめ、瀬奈を見上げる。


真っ直ぐにひろむを見つめる瀬奈の瞳に曇りはない。


「私の食事に、この薬を混ぜたのか?」


「・・・ええ」


「何の薬だ?」


「・・・・・・」


二人の緊迫感に耐えられず、真咲は両手で口元を覆い、十輝はその場に座り込む。


「答えられないのか?」


「・・・食べ合わせを考えた、胃薬の類です」


口先だけの言葉、嘘なのは明らかだった。


ひろむは心が砕け散るような痛みを感じ、自分が立っている事を不思議に思った。


心の見えない表情はいつもと変わらない、それなのに瀬奈の目が怖くて堪らなかった。


通い合ったような気がした心も幻だったのか、全身の血の気が引く。

震える唇で、搾り出すように声を発する。


「毒ではないと?」


「ええ」


「ならば、この場で薬を飲み干してみろ」


そして、すぐに自分も呷って死んだ方がましだと思った。

瀬奈の意図や目的は分からないし、考えたくもない。


なぜ助かってしまったのか、あのまま目覚めなければ、こんな痛みを知らずに済んだのに。


瀬奈は薬包を握り締めるひろむの手に触れ、優しく目を細める。


その手の中から薬包を取り出し、包みを開くと、真咲や十輝の静止に一瞥もくれず、中の粉薬を飲み干した。


震えてへたり込むひろむの前で少し屈むと、その頬を両手で一瞬そっと包み微笑み、部屋を後にした。

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