第45話
腕の中のひろむに口付ける時だけは、胸に温かいものが溢れて一杯になる。
片目の視力が低下し、その顔が霞む事もあったが、どれだけ見つめても足りない。
寝具の中で寄り添い、小さく囁き合うのが唯一の二人の時間。
何度抱き寄せても身を硬くするのが切ないが、熱く濡れ息を殺しながら艶を増していくその身体は、目の毒だった。
薄くなり既に消えたあさこの痕跡、真っ白い内股のそれを確かめると、つい残酷な気持ちになる。
「あの後も、あさこに抱かれたのか?」
凍りついたように瞳を見開き、見上げてくるひろむ。
いいえと何度も首を振りながら、その目にみるみる涙が溢れた。
流れる涙を見せないよう顔を背けて、誰を想うのか。
その顔を両手で包み向かせ、濡れた瞳に口付ける。
「それでも私は、お前が好きだ」
傷ついた目をしたひろむはそっと微笑み、頷いた。
抱き締めて、そのまま壊してしまいたい。
腕の中で、痙攣し意識を失ったひろむ。
悪夢のような光景には覚えがある、何度も。
こうなる事を恐れていたのは、予感していたからかもしれない。
ぐったりと弛緩するひろむの身体を抱きながら、動く事が出来なかった。
血の気が引き、手足は痺れ感覚がなくなる。
何も考えられなかった。
ひろむを失うかもしれない恐怖に頭が真っ白になり、何も見えなくなった。
このままもう、目が覚めなければいい。
おわり
番外編、ゆうひ編でした。
上様も、ひろむにめっちゃ惚れてるってのが書きたくて。
そして、御台様倒れたまんま状態でお待たせしすぎですよね、すみません。
無事ですので、安心してもうしばしお持ちください。
2011.4.10
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