番外編 涙

第42話

私の腕の中で、顔色を失い倒れたひろむ。

またかという思いと、自分が生き永らえ続けている事への罪深さに、改めて気づいた。



私は生まれつき身体が弱く、幼い頃から表に出される事なく過ごしてきた。


兄弟が多く世継ぎ争いが深刻であったが、候補から外されていた私は、矢面に立つ事は少なかった。

だが母親の違う兄弟達にはそれぞれの派閥があり、骨肉の争いが続いていた。


兄弟が次々と暗殺される中、いつしか兄弟でただ一人の生き残りとなった。


一緒に遊んでいた兄弟が目の前で、池に落ちて死んだり、血を吐いて倒れたり。


それを目の当たりにするたび、自分の心のどこかが壊れていくのを感じていた。


毒を盛られたり罠にはまり、生死の境を何度彷徨っても、なぜか私は死ななかった。



いつかは、他家からの養子として挨拶に来た、まだ幼い子供。

緊張しながらも、教わった通り気丈に口上を述べる姿が可愛らしかった。


世継ぎ候補となった私の前でひれ伏し、だが、前に詰まれたカステラが気になるようで、チラチラと菓子を見ては唾を飲み込む。

ヒヤヒヤと見守るお付き達の姿も、微笑ましかった。


菓子が食べたいか?と尋ねると、躊躇しながらも「はい!」と子供らしい返事。

その様子も好ましく、私は手ずからカステラを皿に取り分け差し出してやった。


嬉しそうに頬張り、そして飲み込むや否や泡を吹き、苦悶の表情の中事切れた。


私に盛られた毒なのか、他家の仕業に仕向ける陰謀なのかは分からぬが、自分の前で人が死んでいく運命を呪った。


元より世継ぎへの執着も器量も持ち合わせず、寝込む事の多い私の命などいつでもくれてやるつもりなのに、悪夢のように私は生き永らえた。

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