第41話
上様への謁見後、どこでどう話をつけたのか、真咲とりおが、ひろむの外出の仕度を整えに来た。
ゆうひとの外出でも、取り巻きに囲まれ、決して二人になる事はない。
どうする気なのかと思っていると、どうやら真咲とりおも同行する様子。
分かってはいた事だが、少し落胆している自分が恥ずかしかった。
瀬奈の後をついて、城の表側の庭へ出る。
ゆうひとの散策でしか来る事のない場所だ。
桜の木に彩られた庭園は穏やかで美しく、つかず離れずに従う真咲とりおの事を忘れてしまう位、瀬奈と歩く時間はひろむをときめかせた。
しかし瀬奈は、ひろむと会話もせず景色を眺めるでもなく、どんどん先へと進んでいく。
「瀬奈!」
どこまで歩くのか、思わず声を掛けると、振り返った瀬奈がひろむの手を掴む。
「御台様、お足元に気をつけて」
そう囁くと、瀬奈はひろむの手を引いて走り出した。
ひろむは真咲達を振り返り、大分遠くに居るのを確認すると、瀬奈と一緒に走った。
以前花見に訪れた、桜の庭に出る頃には、辺りに人影はなく完全に二人になった。
見事な桜は盛りを過ぎ、風に舞い盛大に花びらを散らしていた。
森に迷い込んでしまったかのような、庭の奥まで二人で歩く。
頭に花びらを積もらせながら、キラキラした瞳で枝を見上げるひろむに寄り添い、瀬奈はそっと唇を重ねた。
驚いたように瀬奈を見つめたひろむは、真っ赤になって木の陰に隠れる。
それを追いかけて、腕を掴んでは引き寄せる瀬奈。
舞う花びらを撒き散らしながら、逃げ疲れて、木に寄り掛かって息を切らせるひろむを、瀬奈は腕の中に閉じ込める。
「真咲達が来るかも」
「二人で消えると伝えてあるから大丈夫」
走って逃げた方が気分が出るでしょう?と笑う瀬奈に、ぎゅっと抱きつくひろむ。
「誕生日なのに、何もあげられるものがない」
そう言ったひろむの唇に、花びらが一枚貼り付く。
瀬奈はそれを唇で取りながら小さく首を振り、「ありがとう」の形に動かす。
花吹雪で他に何も見えない中、二人はずっとそうしていた。
おわり
大奥番外編です、こんな二人になるといいなぁ・・・
桜を撒き散らしながら、「捕まえてごらんなさ~い」をやってみたかったのです。
あさこさん、お誕生日おめでとうございます。
あなたがこの世に居てくれて、本当にありがとう。
2011.4.1
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