番外編 さくら
第40話
「今日は何かあるのか?」
特に行事があるとは聞いていないが、朝から妙に奥が騒がしい。
桜の季節、先日盛大に行われた吹上御庭での花見の余韻もあり、穏やかな日々が続いていた。
朝の支度に来た真咲に尋ねると、「お騒がせして申し訳ありません」と。
「今日は、瀬奈様のお誕生日なのです」
突然の話に、ひろむは目を丸くした。
騒がしい事を好まない瀬奈に、宴や特別な事は禁じられているが、城の内外から膨大な数の花や贈り物が届いている。
「知らんかった・・・」
驚いて、少し不機嫌そうな表情をするひろむに、真咲が微笑む。
「御台様からお祝いのお言葉を頂いたら、きっと瀬奈様もお喜びになります」
渡り廊下の、届いた花や反物を抱えて走り回る女中達の姿を眺めると、妙に腹が立ってくる。
自分だけが知らなかった事が悔しかった。
朝の挨拶に瀬奈が訪れると、真咲は「失礼いたします」と部屋を後にした。
いつもと変わらぬ様子で、挨拶と今日の予定を告げる瀬奈に切り出してみる。
「今日は、誕生日だそうだな」
ひろむの向かいに座った瀬奈は、表情を変えない。
「下らぬ事を、誰かが申し上げましたか」
「・・・贈り物が沢山届いているとか」
ふてくされたような顔をしているひろむを見て、優しく笑う瀬奈。
「御台様も、何か下さるのですか?」
「今日まで、知らなかったし・・・」
「お気に掛けて下さっただけで、嬉しいですよ」
いつになく穏やかな瀬奈の笑顔に、ひろむは目を反らしながら
「何か、欲しいものはあるか?」
何でも手にしているような瀬奈に、欲しいものなどないことは分かっていた。
でももし、自分にしか上げられないものがあるのなら、それを言って欲しいと思った。
瀬奈は少し驚いたようにひろむを見つめ、
思案しながらそっと立ち上がると、中庭の穏やかな景色を眺めながら
「桜を見に行きましょうか、二人で」
「二人で?」
そんな事が出来るのか、出来ないとしても、それが瀬奈の望みなのだとしたら。
胸が締め付けられるように嬉しくて、ひろむは俯いた。
「花見なら、先日行ったのに・・・」
「壮絶に散る桜も、美しいです」
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