第五話 行方
第25話
穏やかな日だった。
近頃、体調の優れない日があるひろむを気遣ってか、部屋付きの女中は最低限の身近な者のみにし、一人でゆっくり過ごせる時間が取れるよう計らわれるようなった。
もりえとまぎいは中庭に出、女中達に薙刀の稽古をつけている。
忍びの心得のあるまりもは、城の内外を上手い事行き来し、城から動けないひろむのために様々な情報を仕入れてくる。
一人で物思いにふける、静かな時間はわずかでも嬉しい。
あの月の晩の事件以来、しばらく部屋に閉じこもったゆうひであったが、すみかを咎めないようにというひろむの命を聞き、数日振りに奥を訪れた
庭の東屋で向かい合い、怖い思いをさせてすまなかったと謝るゆうひに、すみかの所在を尋ねるひろむ。
元々は城の御膳所で下働きをしていたというすみか。
何かと御膳所へ足を運ぶ変わり者の将軍を皆が遠巻きに扱う中、ただ一人将軍を特別視せず、菓子作りなどを教えてくれた友達だったと。
「でもあの娘は、ゆうひ様をお慕いしていたのでしょうね」
「人の気持ちは分からない、気を許した者ほど分からない」
共に兎を葬り、すみかにはしばらく宿下がりをさせたとか。
表情の無い、遠い目をするゆうひの気持ちが分からなくて、ひろむは黙ってゆうひの話を聞く。
「でも今はひろむが居るからいい」
「そう言っておいて、突然放っぽり出されたりしたら・・・私も狂うのかもしれません」
少し意外そうに、ひろむの顔を覗き込むゆうひ。
「そうなのか?」
そっぽを向いて
「そうなるかも、の話ですわ」
と赤くなるひろむをそっと抱き寄せて、「ひろむは正直でいい」と。
皆が見ている、と抗うひろむの瞳を見つめて
「また今宵、奥に泊まりたいが・・・良いか?」
「・・・上様なんやから、私に聞かんで下さい!」
ゆうひは愉快そうに笑いながら、「ひろむは動揺すると里の言葉が出るな」と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます