第23話

今宵も上様が奥に泊られる。


将軍付きの越乃様が瀬奈様にお伝えに来られるが、凍りつくような瀬奈様の空気が恐ろしくてならない。


お傍付き女中へのお渡りがなく、御台様の元へと通われる上様に、越乃様も立つ瀬がないようだ。


「一体、上様はどうされてしまったのだ」


無表情の瀬奈様を見やり、含み笑いをした越乃様が「よほど御台様は・・・」と呟くと


「りお!聞こえたのか、早う御三の間へ仕度をと伝えよ」


「はっ」


ここの所ビリビリと、触れたら殺されそうなほどご機嫌の悪い瀬奈様。


真咲様は意気消沈しお元気がないようだし、呑気にあくびをしているのは御台様のみ。


越乃様の言った言葉、大奥の皆が暗に囁いている事だ、興味と少しの嫉妬を込めて。




瀬奈さまと過ごされた夜、お迎えの際に見かけた御台様のお姿。


真っ赤に潤んだ瞳と、色づいた唇から眼が離せなかった。


瀬奈様のお手に爪を立てられる姿を想像し、逆に自らの手に爪を立てていた真咲様を思い出す。



何事もなかったように過ごされる御台様ではあるが、あの夜から確実に変わった。

ゾクッとさせる視線や溜息は、ご自分では気づいていないから余計にたちが悪い。


折にふれ、あの夜お部屋に焚いた花の香を、自分の衣に焚き染める。

その着物でお傍仕えをすると、香りに気づかれるのか、そわそわと私を見つめてくる。


おそらくあの宵の香りだとはお気づきではないようだが、身体が覚えているのか、ふと耳を赤らめている事がありお可愛らしい。


上様と仲睦まじいのは何よりだが、瀬奈様からの強いご執着は、穏やかではない気がする。


もりえ殿達は、お幸せそうな上様と御台様のご様子を喜んでいるようだが、以前までの上様を知る者達からすると、何かがおかしい。


霞んだような眼をしていた上様が、生き生きとしておられる。


内面を表に出す事が決してなかった瀬奈様が、心を乱されている。


朗らかで明るい御台様のお輿入れ、その吉凶がどうにも見えない・・・

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