第22話

上様との初夜は、思っていたよりあっけなく済んだ。

声も上げず身動きもせず、手解きの通りに出来たと思う。


「昨夜のお褥、無事お済みになり良うございました」


どうにも、瀬奈にだけは合わす顔がない。

あれだけ濃い時を共にしながら、何事もなかったように過ごすのが、かえって秘密を共有しているようで堪える。


だからといって、どうしようもない事なのだが。


「ああ、世話になったな」


とにかく、上様の前で失態を晒さずに済んだのは、瀬奈の手解きのお陰であったことは確かなのでそう言った。


一瞬呆気にとられた瀬奈が下を向き、肩を揺らして笑いを堪えている。


礼を言ったのに何が可笑しいのか、思わず睨み付けると、立ち上がって歩を進めた瀬奈にぎゅっと抱かれた。


一瞬のうちに唇を奪って去って行く後姿を見上げ、力が抜けたひろむは傍らの肘掛にへたり込んだ。



その夜も、上様が奥泊りをされるという知らせに大奥はざわめいた。


続く日もその次も連夜のお渡りに加え、昼間も上様は御台様と共に過ごされた。

御台様の点てられたお茶を楽しまれたり、お二人でお庭を散歩されたりと、それは仲睦まじい様子。


それを微笑ましく見守る者ばかりでは、無論なかった。



城の庭を散策しながら、池の鯉に餌を撒くゆうひ。

その傍らをついて回りながら、外に出られる幸せをひろむは噛み締めた。


自分だけでは大奥の中庭程度しか出してもらえないが、ゆうひの供であれば城の庭園へ出る事ができる。


城で立ち働く者達の姿や、庭師や馬を見かけることもある。

閉じ込めらた籠の鳥である事を、少しでも忘れられる気がする。


遠くで、樹木の手入れをする者達の、やけに大きな掛け声に聞き覚えがある気がし、そちらを見やるがよく分からない、気のせいか。


距離を置いて見守るお取り巻きの中に、兎を抱いた娘の姿がある。

じっと睨み付ける視線に気づき


「最近、兎の世話を任せっきりなのではないですか?」


「ああ、すみかがしっかりやっているから大丈夫だ」


そう言ってひろむの手を取り微笑むゆうひ。

二人の時間は安らぐが、取り巻き達の微妙な空気を感じるひろむは、ザワザワと落ち着かない心持ちであった。

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