第21話

事が終わり、茫然と布団の上に座るひろむの、乱れた髪を調える瀬奈の眼がひどく優しい。


どうしていいか分からず、その眼をじっと見上げるひろむに、そっと口付ける瀬奈。


「よくできましたよ、これで大丈夫」


「そうか」


「もし明日怖ければ目を閉じて、私の手だと思えば怖くないでしょう」


「・・・」




灯りを持ってきたりおの顔を見れずに俯いていると


「瀬奈様、そのお手はいかがなされましたか?」


見てみると、瀬奈の白い手の甲に血の滲む等間隔の傷。

瀬奈は笑いながらその傷を舐めると


「御台様のお爪は、もっと短く切らすように」


「承りました」と頭を下げるりおが一瞬漏らした含み笑いが目に入り、ひろむはいたたまれなくてさらに俯いた。




念入りに爪を短く切られ、仕度を整えたひろむは将軍を迎える奥座敷へ向かう。


座敷で一献交わした後、奥の広い寝所へ通された。


屏風を引いた次の間に真咲とりおが控えているのが気にはなったが、それよりも我を忘れる状態に陥るのが怖くて、ひろむは全身を強張らせた。


「緊張する事はない」


そう言い座ったゆうひの、眼帯を付けた姿をじっと見上げると


「私の隻眼が怖いか?」


「片方の御目がお優しいので怖くはありませんが、お顔が見たい」


次の間で、真咲が咳払いをするのが聞こえるが、ゆうひは薄く笑った。


「恐ろしい傷跡の形相であったら、どうするのだ?」


「・・・わかりませぬ」


正直に言うひろむを不思議そうに眺めたゆうひは、後ろを向いて眼帯を外した。


振り向いた姿は、何の傷跡もない優しげな白い顔。

息を詰まらせていたひろむは、ほっとして長く息を吐く。


少し眉間にしわを寄せたゆうひは、病で視力が低下し、蝋燭の灯りでさえ眩しいのだと話した。


「それに、変わり者には隻眼の風貌が似合いだからな」


そう言って笑うゆうひに安心して、ひろむも微笑む。


「蝋燭の灯りなら、消してしまいましょう」


灯りを消しに立ち上がろうとするひろむの手を引いて、布団にそっと倒すと


「それではお前の顔が見えない」


と、じっと見つめてくる両目に、ひろむは頬が熱くなるのを感じた。

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