第20話
大奥では、将軍を迎える準備で慌しい。
古株の側室が居るには居るが、お渡りがなくなって久しいこと。
数年振りの上様の奥泊まりという事で、大奥が本来の華やかさを取り戻す。
無論、また今宵を限りにという事も考えられるが。
ひろむは不安で仕方がなかった。
頭の中から消そうとしてもやき付いて離れない、昨夜のこと。
同じような事が今宵も、これからも続くのは耐えられないと思った。
よぎった思いを振り払おうとすればするほど、身体に残る生々しい感触が蘇り、ひろむは目を閉じた。
・・・離れの座敷に残され、襖の前で縮こまって座っていたひろむ。
部屋の奥には、物憂げに煙管を銜える瀬奈の姿。
黒地の華やかな打掛を羽織り膝を崩す姿は、普段の姿とはまるで違い仇っぽい。
最初は恐ろしくて震えていたが、動こうとしない瀬奈に焦れ、ひろむの方から「どうすればいいんだ?」と。
奥の寝所を示され、腹の据わったひろむは大股で進み、布団に入った。
甘い花の香りと揺れる蝋燭の灯りにも落ち着く事ができず、大きく息を吐き出した。
後に続いて襖を閉じた瀬奈は、羽織った打掛を肩から滑らしながらひろむを見下ろす。
渋い色の襦袢を腰で締めた姿が女性には見えなくて、ひろむは思わず顔を背けた。
「ひろむ殿・・・」
膝を進めながら、可笑しそうに瀬奈は言った
「いくら大きなお布団とはいえ、そう真ん中を陣取られては上様も戸惑われます」
それもそうだと思いながら、ひろむは布団に潜り込みながらモゾモゾと端へ移動する。
頭まで潜り込んでしまった布団を剥がしながら、「暑いでしょう」と瀬奈はひろむの着物の胸元を広げる。
瀬奈の手が冷たくて、その手を抑えるが「動かないで」と止められる。
さらに進む手の動きに熱くなっていく身体と、初めて知る感覚に悶えたが、その度に「声は出さないで」「足は開かない」と囁かれた。
そのくせ動かす手は逆ばかり仕掛けてきて、ひろむは頭がおかしくなりそうだった。
耐えられなくて泣いたし、止められるのが嫌で色々口走った気がするが、あまり覚えていない。
とにかく人の前であんな風になったのは初めてだったし、見られる相手が瀬奈だけで良かったと思った。
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