第15話

「真咲様・・・」


部屋に戻っても、眼を伏せ何も仰らない真咲様。

誰を想いそんな表情をしているのか、私でないことだけが確かで胸が苦しくなる。


「御台様が心配ですか?」


ピクっと指先が動いたが、何の反応もない。


「それとも、瀬奈様の事をお考えですか?」


俯いたまま低く笑う。

いつもスッと背筋の伸びた真咲様が、いつになく気だるげで、思わず抱きしめた。


「私のこと、見てください」


そう囁くと、押しのける素振りでそっと身を倒す。

そこへのしかかると、私の首に手を回して目を閉じる真咲様。


跳ね上がる鼓動の高鳴りに任せて、その身体を畳に押し付け深く口付けた。




婚儀の朝。

私達お供の三人には、見るも聞くも初めての事だらけで、とにかく邪魔にならぬよう控えていた。


昨夜遅く、瀬奈殿に伴われて離れからお戻りになった霧さま。

ずっと下を向いたまま、私達の顔も見ず「休む」と。


その目は泣き腫らしたかのように真っ赤だった。


お布団に頭まで潜られた霧さまに


「何かございましたか?」


と話しかけると、枯れたお声で「心配ない」と一言。


聞いてくれるなという風情に、部屋を出た。

分かってはいた事だが、少しずつ霧さまが遠くなる。


霧矢のお家では、家族のように供に過ごしてきたが、将軍の妻となられるお方。

今までとは違うのだという事を、私達が肝に銘じなければならない。


各所から、お部屋へ運ばれてくる装束や道具を仕分け、沢山の贈り物を並べたりしているうちに霧さまが目覚められた。


女中たちに連れられ、いつもよりお早く朝の入浴へ出られたが、やはり様子がおかしい。

一言も声を発せず、目を伏せた能面のような表情。


これまでの霧さまとは別人のようで気になるが、私達が踏み込んではならない事もあるのだろう。

三人で顔を見合わせ、ため息をつくことが多くなった。

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