第14話
独り寝所へ向かう瀬奈を見送り、御台様をお迎えに行く。
真咲様と瀬奈様が・・・予想はしていたが、聞きたくなかった。
大奥の中臈女中には御台様付きと上様付きが居るが、上様付き女中は基本上様のお手が付いた者たちで、その中から側室が選ばれる。
御台様付きは「お清」と呼ばれる、手付かずの女中が主ではあるが、裏では「瀬奈様のお手付き」とも囁かれている。
雑用の御三の間から一気に中臈に上がった私も、嫉妬も含め散々周りからそう言われた、実際には違うが。
以前の瀬奈様には色々あったらしいが、あの事件以降は聞かなくなった。
・・・総触れで上様のお目に留まった、美しい女中が居た。
良家の子女で気が強く、どうにも扱いにくい女であった。
上様の安全のために、側室候補たちの身体の検分は診察とあわせ慎重に行う事になっているが、従わない女中。
上様のご所望ゆえに差し出さぬわけにもいかず、越乃は頭を抱えていた。
それを見かねた瀬奈が任せろと。
一夜にして従順な女へと変貌を遂げた女中は、無事上様に差し出された・・・までは良かったが。
その後、上様との同衾を嫌がるようになり「瀬奈に逢いたい」と。
上様への侮辱の罪で大奥内の牢に幽閉されるうち気が狂い、焦がれた瀬奈から抜き取った簪で喉を突いて死んだとか・・・
おそらく、ご検分をお独りで行うのはそれ以来。
多分その時とは違う、これは瀬奈様のご意思。
髪を下ろし、お寝巻きの上に打掛けを羽織った御台様を、灯りを持って先導する。
俯き足取りも重く、傍目に見えるほど震えている御台様、これは夜の寒さのせいばかりではないようだ。
それを見た真咲様が、心配そうにその手を握られる。
「何も怖い事はありません、大丈夫ですよ」
真咲様を見上げた御台様の瞳、二人に通じ合うものを感じて嫌な予感が渦巻く。
離れへ到着し、お声を掛けて襖を開くと、部屋の奥で煙管を片手に膝を崩し、物憂げな様子の瀬奈様。
部屋の前でお待ちすると言う真咲様を黙らせ、呼ぶまで自室で控えているようにと。
御台様をお部屋にお通しし、襖を閉じた真咲様の顔色があまりに蒼白で驚く。
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