第13話

翌朝・・・婚儀の前日という事で、暗いうちから城中が慌しかった。


上様との対面の仕方や様々な決まりごと、段取りなどを聞かされ頭が一杯になる。

とは言え、どんな時でもただ黙って座っていれば良いらしいので、どうという事はないが。


日が暮れてから現れた、上様付きの女中や側室達を取り仕切る越乃から、上様の妻としての心得を聞かされた。


越乃は瀬奈と同格のようで、数人の女中を従えてはいるが、ずっと気さくで話しやすい。

これが手解きというものなのか、予想していた範囲の内容で少しホッとした。


越乃は話が終わると瀬奈に「いつぞやの二の舞だけは踏まないよう」と言い残し、部屋を後にした。



いつもの顔ぶれになると、瀬奈は立ち上がり


「御台様に、軽く湯浴みとお寝巻きを」


真咲とりおに指示を始める瀬奈にギクッとする。


「それから離れのご寝所にお連れして」


「瀬奈、何を・・・?」


「ご検分・・・練習のようなものですよ」


そんなもの不要だと言い返そうとするが、瀬奈は淡々と続ける。


「大奥では年若い御台様やご側室もありますゆえ、上様にご無礼のないよう漏れなく行うしきたりです」


「瀬奈・・・頼むから、勘弁してはもらえんか?」


衝撃に脱力して、いつになく殊勝に切り出してはみたが無駄だった。

そっと微笑みはしたが


「今回は特別にお取り巻きもなく、簡単なものです。横になって、目を閉じておいでになればすぐ済みますよ」


何をされるのか、さっぱり想像つかないところが何より怖い。

お取り巻きが居ないのは結構だが、瀬奈と二人というのも・・・



大奥とは別棟の、離れにある寝所に灯りが点された。

りおは指示された香を焚き、部屋の仕度を整え終わると、瀬奈の部屋へ知らせに行く。


「瀬奈様、お部屋の御仕度が整いました」


「分かった」


「・・・」


何か言いたげなりおに苦笑しながら、瀬奈はりおに向かう。


「何か言いたい事があるのか?」


「先日、今宵の事は真咲様の最初と同じだと仰いましたが・・・」


「ああ、まさおとのことか、昔の事だ」


「やっぱり!」


「あの美貌だ、私が手を付けなくても同じ事。私の手付きだということで、虫も寄り付かなくなった」


お前だって同じようなものだろう?と笑う瀬奈に


「私には、そんな事ありません!」


「早く、お前のまさおをその気にさせれば良い」

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