第16話

朝の挨拶を申し上げても表情を変えない。

決して私と目を合わさず、何もかもを撥ね付けるような見えない壁を張り巡らせている。

気丈に務めを果たそうとするその小さな肩が、どうにもいじらしい。


婚儀での特別な化粧は、私が手がけよう。

おそらく私との事で頭が一杯になっているであろうその顔を、今日だけは独りでゆっくり眺めたい。


化粧の間に私しか居ない事に驚いたようだが、無表情。

向かい合うと軽く目を閉じ、微動だにしない。


髪が上げられ露わになった首に、白粉を塗るためにそっと触れると、驚いたように身体を震わせる。

思わず笑いが漏れた


「もう昨夜のお務めは終わりましたよ」


表情は変えないが、首筋に血が上がり熱くなるのが分かる。

上様とのご対面前に動揺させてはならないが、強情なお顔を見ているとつい。


目鼻立ちがくっきりと華やかで、化粧などしなくても美しい。

吸い込まれるような瞳と、可愛らしい口元は本当に見飽きない。


思わず触れたくなるが、そう許される事ではないのだろう。

昨夜は「ひろむ」とお呼びしたが、それももうない事。


この私がどうにも心を乱されている。


婚儀のみに使われる、特別な染料を使った鮮やかな紅の色。

この色が似合う女の顔は見たことがないが、どうだろう。


長い睫毛を伏せ、少し開いた唇に筆を走らす私の手は震えていなかっただろうか。


紅をひき終えたひろむの姿に、ドクっと胸が震える。


背後に回り「終わりました」と手鏡を差し出すと、鏡に自分の姿を映し、驚いたようにしばし凝視する。


鏡越しに視線を合わせ、じっと私を見つめてくるひろむ。

そして、見たこともない表情で妖艶に笑うその姿に、私は魂を奪われた。


目を反らしたのは、私の方だった。




つづく



本当にごめんなさい、またまた予告に偽りありでした!


なんだかみりお視線で書くと、どうにも長くなりまさおを押し倒したくなちゃってさ・・・


って、みりおのせいにしてみる。


もう予告はやめます。



そして、大奥関係なく単なる愛憎劇になってますが、良いのかな~

もっとドラマに忠実にするはずだったのに。



第三話 おわり

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