第10話
「真咲様、痛みはありませぬか?」
ここは瀬奈の住居に隣接した真咲の部屋、瀬奈付きの二人だけに特別に与えられている個室だ。
冷たく絞った布巾を、赤くなった真咲の頬に当てながらりおがぼやく。
「真咲様はお優しすぎます!あのように品のない、田舎者・・・」
「りお!御台様に向かって何てことを」
「気位の高い姫様や、生意気なご側室もありましたけど、あんなに気性の荒いお方は初めてです!」
「そうだけど・・・なんだかお可愛らしくて、つい余計な事まで言ってしまう」
「真咲様・・・」
りおは切なげに真咲を見つめた。
誰よりお美しく聡明なお方、誰を思い出しているのか、優しく笑う姿に胸が痛む。
確かに御台様は男勝りでお色気は足りないようだが、端整でお美しい。
今までお会いしたどんな姫君よりお可愛らしいのに、あの粗暴さ・・・
だがお褥前の手解き、あれで大抵の女は大人しくなる。
特に、瀬奈様の手に墜ちれば・・・
「真咲様、明日のご検分は手こずりそうですね」
「その事だが・・・瀬奈様にご相談申し上げたいと思っているのだ」
「何をですか?」
「女中の介添えに慣れていない御台様、入浴の際もあんなに嫌がられて・・・」
上様とのお褥は仕方ないとしても、お目付けがある中でのご検分、あのご気性ではお可哀想と。
今までそんな事を仰った事はなかった、いつもお優しい方だけど・・・
「真咲様、いつもと違います、御台様に対して何かおかしい」
「みりお・・・」
そう呼ばれ、りおはすがりつく様に真咲の唇を奪った。
甘く良い香りがする真咲の唇を夢中で貪ると、真咲はそっとりおを押し戻し、優しく抱きしめる。
「みりお、瀬奈様が・・・」
「そうね、丸聞こえよ」
背後から聞こえた声に二人は凍りつき、さっと離れる。
いつの間に現れたのか、呆れた顔をして二人を見下ろす瀬奈がいた。
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