第8話

「なぜそんなことを?」


「上様のご正室として天下人となられる御台様に、どうして使い古した衣装や道具が必要でしょうか?」


「呉服の間の者達が今、寝ずに御台様のお召し物を仕立てております」


他の者と違う、独特な美しい化粧と髪の結い方をした真咲は、女中達の憧れのようで、皆がうっとりとその姿を見上げる。


「さあ御台様、大奥での生活に早く慣れていただかなくては」


そう言って微笑む真咲の頬を、力一杯叩いた。


悲鳴を上げる女中達と、よろめく真咲に駆け寄りきつい目で見上げてくるりお。


まだ幼さが残るが故の、素直な表情に余計腹が立つ。


「昨日の・・・瀬奈の仕業やな、ここへ呼んで!荷物を戻すよう伝えや!」


「お荷物は全て焼き払いました」


打たれた頬をもろともせず、気丈に言い放つ真咲。


「御台様、今のご自分の姿をご覧ください!乱れ髪のまま大声を出されて!これが上様の妻となられるお方のお姿か?大奥の女中全ての主となられるお方のお姿でしょうか?」


真咲の真剣な眼差しにひるむ、振り上げた手が震え力が抜ける。


「ご無礼を申し上げました、申し訳ございませぬ」


そう言いひれ伏した真咲に声を掛けたのはもりえ。


「真咲殿の仰る事は分かる、我々にとっても霧・・・御台様が御台様として、大きなお役目を果たされることを願ってはいるのだ」


まりもがそっと寄り添い、自分の羽織を着せ掛けてくれる。


「だが、急にお立場が変わられ動揺のさなかの御台様のお気持も、察してはくれないか?」


乱れた髪を撫でてくれるまりもと、真咲と向かい合って座り私を庇ってくれているもりえ。


真咲に手を上げた私を睨みつけるりおの前に、立ちはだかるまぎい。


私なんかより、ずっと覚悟が出来ている。

意地も誇りも、きちんと前を向いて持っている。


虚勢を張って大声を出していた自分が恥ずかしくなった、部屋の中で息を潜めている女中たちや、廊下に控えているお付の者たち。


これが全て自分のためだけに働く者なのだとしたら・・・真咲の言う通り、無様な主の姿をどう思っただろうか。


「手を上げて悪かった」


深々と頭を下げた真咲を庇うよう、りおが口を開く。


「御台様、上様とのお目通りまであまり日にちがございませぬ、それまでに・・・」


「わかった、しきたり、やろ」

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