第二話 御台所

第7話

朝・・・


大勢の人の動く気配でひろむは目を覚ました。

昨夜は入浴の後、疲れのせいか食事もせずに寝入ってしまった。


夜更けに目を覚ましたひろむは、連れ去られたふーを探そうと、豪華な寝具から抜け出した。

そして、寝室はおろか住居至る所で女中が寝ずの番をし、自由に出歩く事など不可能なことを知った。


大きく伸びをして寝具から起き上がると、いつの間に部屋に居たのか、お付きの女中から声が掛かる。


「御台様、お声をお掛けするまで起きてはなりませぬ」


早速朝から「なりませぬ」が始まったわ・・・


どうしていいか分からずモゾモゾしていると、隣の部屋からまぎいの高い声が響く。


「これは、どういうこと?!」

「大きな声をお出しなさいますな、まだ御台様がお休みです」


もりえとまぎい、それと数人の女中達の言い争う声が響く。

とても横になってはいられず、お付きの制止を振り切って寝具から飛び出し、隣の部屋へ飛び込んだ。


「まぎい、大きな声を出してどないしたの?」


大奥の女中達はさっと控え、その場にひれ伏す。


「霧様!我々が持ち込んだ荷物が全て無くなっております!」

「霧さんの衣装箱まで、誰が勝手に持ち出したのか」


確かに、昨日は数々のつづらで一杯だった部屋ががらんとしている。

他の部屋に移されたのではと、ひろむは表の間や奥の襖を行き来する。


そこへ、真咲とりおの二人が飛んできて目を丸くする。


「御台様!お寝巻きのままでそのような!」


「お付きの者たちは何をしている!」


「真咲、我々が持ち込んだ衣装や荷物はどこへやった」


「夜のうちに全て処分いたしました」


なっ…、あまりの衝撃に目の前が眩んだ。

母上が縫ってくれた着物や羽織、父上や里の者達が持たせてくれた思い出の品、大和が選んでくれた簪・・・

もりえ達は、江戸へ上がるということで張り切って衣装を誂えてきたのに。


まるで島流しの罪人に対するような扱いではないか?


怒りを抑えて声を出すが、震えが止まらない。

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