第4話

長旅の後で、薄汚れた身なりは承知のうえ。

たが、母上の形見の着物を愚弄されたようで、胸がつまってうまく声が出せない。


女中達が、華やかな衣を乗せた盆をいくつも運び込んでくる。


「さあ御台様、こちらへ」


りおに手を取られ、思わず振り払う。


「着替えくらい、自分でするわ!気安く触らんといて!」


あっけに取られている女中達。


「そのお里言葉も、なりませぬ!」


真咲が厳しい顔で言い放つ。


言葉が出なくなる私の傍らで、じっと控えていたまりもが立ち上がる。


「正式な御台所となられる霧矢様に対してのその無礼、立場をよくわきまえよ!」


年若いまりものあまりの迫力に私まで驚いたが、震えながらも全力で私を守ろうとしてくれている姿に、私がしっかりしなくてはと思い直す。


上座に座り直すと、廊下が何やら騒がしい。

その気配に真咲とりおが静かに左右に控え、場を空ける。


廊下から現われた長身、長く引き摺る打掛けをスッと蹴り上げてひろむの正面を向く。


自分達の王を迎えるかのように、深くひれ伏す真咲とりお。


黒の打掛けと、突き刺さるような鋭い視線が真正面から近づいてくる。

一礼の後、ひろむの瞳を強く見つめながら、深みのある低い声で告げる。


「大奥総取締、瀬奈にございます」


ひろむと、控える供の者達をゆっくりと見渡し、再度ひろむへと視線を戻す。


「奥のことにつきましては上様から一任されておりますゆえ」


なんなりと、と口元だけで薄く微笑む美しい姿、正直怖かった。


江戸の大奥の全てを取り仕切る、将軍と並び称される女性が居ると聞いたことはあった。


それがこの、強い瞳を持った目の前の人。

背後に美しい二人の供を従えたその姿は、ひろむの目に痛いほど焼き付いた。

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