第3話

迎えの者たちの制止を押し切り、共に仕えてきてくれた侍女のもりえとまぎい。

それに、まだ幼い故に親元に残してやりたかったまりも。

どんな扱いを受けるのか分からない私のために、故郷を捨てて来てくれた。


この者達のためにも、私はお役目を全うしなくてはいけないのだと肝に銘じて、江戸の地に降り立った。




籠を降りると、高い石壁に囲まれた門の前だった。

ここからは男子禁制だということで、籠や荷車が女の手に引き継がれた。

体格の良いもりえとまぎいは、男ではないかと疑われた挙げ句、荷物運び役に。


街では当たり前に男がする仕事を、女がしている。

美しい着物をまとい列を先導する者と、車を押す者全てが女。

異様な光景に、ひろむは唾を飲み込んだ。


長い石畳と廊下を進み、ようやく部屋に通された。

荷物が運び込まれ、ここが私の部屋になるのか。


襖と廊下を挟んだ向こうには中庭が広がるが、廊下と建物が四方を囲い空すら見えない。

ひどく息が詰まる。



衣擦れの音とともに二人の女官と、廊下に数人の侍女が現われひれ伏した。

並んだ女官は息を呑むほどの美貌、まだ若い。

上座に着いた私と、傍らに控えた三人に緊張が走る。


薄い水色の打ち掛けを羽織り、冴えざえとした黒い瞳が印象的な女官が先に口を開く。


「長旅、ご苦労にございました。御台様にはお初にお目にかかります、身の回りのお世話をさせていただきます、真咲と申します」


並ぶ女官はさらに若く、山吹色の華やかな打ち掛けがよく似合う、花が咲いたような風貌。


「りおにございます、どうぞなんなりとお申し付けくださいませ」


揃ってひれ伏す姿に毒気を抜かれたが、毅然としていなければ。


「真咲にりおやな、わかった。だが側仕えは郷から連れてきたこの者達がおるので不要や」


頭を上げた真咲はにこやかに、だが間髪入れずに


「お郷の供方にお任せする事は何もありませぬ、江戸には江戸のしきたりがございます故」


「無礼な!」


いきり立つ二人を制して、穏やかに応える。


「もちろんしきたりには従うし、学ばなければならぬ事も多いだろうが、身の回りのことは気心しれた者に任せたい」


「身の回りの事にこそ、大奥のやりかたというものがございます」


「まずは御台様、その埃っぽい着物をお召し替えいたしましょうか」


「お供の方々も、そのなりでは御台様が笑われますぞ」

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