John
第7話
side:John
(やっと、お嬢様が私のものになった)
スカーレットの前で跪くジョンの胸中は、狂喜に満ちている。
スカーレットを手中に収めるまで、どれだけの歳月をかけたことだろう。
遡ると、侯爵家へ赴いた十二年前になる。
当時、下働きとして雇われた十四歳のジョンは、八歳だったスカーレットを一目見た瞬間、激しい恋に堕ちた。
ブルネットの癖のない長い髪、通った鼻梁だが小さな鼻、血色のいい薄い唇。
現在の基準では、美人に分類されない容姿だが、おどおどしたヘーゼルの瞳に隠れた聡明な眼差しに心を奪われた。
休む暇もなく勉強やレッスン漬けの小さな令嬢を、ジョンは遠くから見つめていた。
スカーレットは飲み込みが早く、非常に優秀だった。
それでも両親である侯爵夫妻は、彼女を褒めることはなく、粗を見つけては「出来損ない」「無能」だと罵倒し、頬をぶった。
ある日、ぎっくり腰になった庭師に代わって、庭園の草むしりをしている時、温室の裏手で膝を抱えるスカーレットがいた。
「お嬢様?」
ジョンの声に気付いたスカーレットは、顔を上げて立ち上がった。
「な、なんでもありません」
気丈に振る舞うが、赤くなった目が泣いたことを物語っている。
「泣いても構いませんよ。お嬢様と私だけの秘密です」
畏れ多いと思いつつも、宥めるように彼女の髪を撫でると、ヘーゼルの瞳から大粒の涙が溢れ出した
「お、おにいさまが、オフィーリアさまとくらべて、わたくしの顔がみにくいと……」
スカーレットの実兄は、ことある事に公爵令嬢のオフィーリアを引き合いに出し、実妹を執拗に貶した。
「お嬢様は決して醜くありません。美しく、優秀で素晴らしいご令嬢でございます」
これはジョンの偽りなき本音であった。
ジョンの目に映るスカーレットは、美しくて、聡明で気高く、高潔な魂を持つ少女だ。
「あなただけだわ。わたくしのことをそういってくれるのは」
スカーレットは気恥しげに目を細めては破顔した。
この小さな令嬢を抱き締めてやりたい。
ジョンは己の身分を恨んだ。
王子や高位貴族の子息ならば、スカーレットを婚約者に指名し、囲ってやることが出来るのに。
令嬢と使用人との距離感を保ちつつ、ジョンはスカーレットへの想いを募らせていった。
突然、暇を言い渡され侯爵家を出て行く時、ジョンは、断腸の思いでスカーレットの告白を断った。
(いつか、貴女を迎えに行きますから)
己に縋り付き、嗚咽を零すスカーレットを見つめながら、密かに誓いを立てた。
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