第6話

地下牢から抜け出して一年が経過した。


スカーレットは久し振りにジョンと共に侯爵家を訪れた。

状況は見ていないが、中は、凄惨な事件が起きたとは思えないほど埃一つ見当たらないほど磨かれている。


「ありがとう、ジョン」

「私のような下賎な者が、お嬢様の……いえ、“ロゼアン卿”のお傍にいてよろしいのでしょうか」

「下賎だなんて、卑下なさらないで」


ジョンが述べた“ロゼアン”とは、代々スカーレットの家が継いできた侯爵位である。

先日、スカーレットは亡き父の爵位を継いだ。

現侯爵であった父、後継者の兄が亡き今、爵位を継げるのはスカーレットだけだ。


アリスターの母君で、現在の君主である女王レオノーラ二世が五年前に法改正を行い、女性でも爵位を継げるようになったのだ。

女王陛下によって継承を承認され、スカーレットは正式に女侯爵となった。


「これから、わたくしが話すことに耳を傾けてください」


ジョンの方へ目を向けると、彼は真っ直ぐ射抜くようにスカーレットを見つめていた。

躊躇うように一瞬だけ視線をそらしたが、再びジョンを見つめると、重い口を開いた。


「侯爵として命じます――――わたくしの夫になりなさい」


(わたくしは罪深い女。権力を笠に着て、貴方を鎖で縛り付けている。例え他の方を想っていても、離れ離れになりたくないの……)


きっと、ジョンはこう言えば受け入れてくれるだろう。それでも、スカーレットは不安げに彼を窺っていた。


ジョンは白皙の美貌を綻ばせた。


「ロゼアン卿のご命令を、謹んでお受けしたします」


ジョンはスカーレットの前に跪き、手袋に包まれた手を取ると恭しく口付けをした。


こうして、かつては令嬢と従僕だった二人は、身分差を越えて夫婦になったのだった。

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