第5話

ジョンの自宅は、都心の外れにある二階建てのテラスハウスの一軒だった。


「狭くて申し訳ございません」とジョンは謝っていたが、衛生環境が劣悪な地下牢に十ヶ月近く過ごしていたスカーレットは、天国に思えた。


日当りの良い寝室のベッドに寝かされて、スカーレットはジョンに甲斐甲斐しく看病を受けていた。

やせぎすだったスカーレットは、少しずつ肉付きが良くなり、青白くカサついた肌につやと血色が戻って来た。


ベッドに伏せている間、屋敷のことや凄惨な事件の処理は、ジョンが代わりに行ってくれた。


ジョンと同じ屋根の下で過ごす日々は、愛おしく、スカーレットの胸を終始ときめかせた。




体が回復し、ベッドから起き上がれるようになったある日のこと。

ジョンは朝から所用で出掛けており、一人残されたスカーレットは、家の中を探検するように歩いていた。

侯爵家と比べて狭く華美ではないが、温かみがあって落ち着く空間だ。


一階の居間のテーブルに、開いたままの日記が置かれていた。


(何かしら……)


スカーレットは好奇心に抗えず、その日記を手に取り、目を通してしまった。


“私は長いこと一人の女性に心を囚われている。私のような下々の人間が想いを伝えることは許されない。艶めく金の髪に触れて、エメラルドのような瞳に私を映して下さればどんなにいいことか”


目の前が真っ暗闇になった。


ジョンの日記には、一人の女性への強い愛情が綴られていた。記載された特徴はオフィーリアと被っていた。


(……ジョンは、オフィーリア様が好きなのね)


胸が軋むように傷む。

スカーレットは日記をテーブルの上に置くと、床に崩れ落ち、はしたないと知りながらさめざめと嗚咽を零した。


(アリスター殿下の時は、何も感じなかったのに、ジョンだと引き裂かれるように痛いわ……)


ひとしきり泣き終えると、スカーレットは平静を取り戻し、姿勢よく立ち上がった。




「決めたわ……」


スカーレットは、ぽつりと呟くと覚悟を決めた。

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