第4話

ジョンは鍵束の中にある一つの鍵を取り出し、牢の施錠を解いた。


「お嬢様……なんておいたわしい……今にも儚く消えてしまいそうだ……」


スカーレットを一瞥すると、ジョンは悲しげに眉を下げた。


「どうして、ジョンがここに? 一体、屋敷で何が起こったの?」


すると、ジョンは言いにくそうにスカーレットから目を背け、苦虫を噛み潰したような顔をさせた。


「この屋敷に賊が侵入し、お嬢様以外の者は無惨に殺されたのです」

「皆……」


悲鳴の原因は賊によるものだった。


「私は偶然屋敷の近くを通りかかった時、悲鳴が聞こえたので駆け付けた次第です」


一夜にしてスカーレットは、天涯孤独となった。

ただ、スカーレットは成人しているので、大人による庇護を必要としない。


「お嬢様、私の家に参りましょう」

「……っ!」


ジョンの申し出に、スカーレットは素っ頓狂な声を上げてしまいそうになった。貴族令嬢としての矜恃がそれを阻止した。


「いけません。わたくしは未婚の身です……」


未婚の子女が男性の家に入るなど、醜聞スキャンダルになってしまう。


「それに、ジョンの奥様に申し訳ないわ」

「心配は無用です。私はまだ誰も娶っていませんから。それに貴女は酷く衰弱なさっている。今は保護が必要なのです」


ジョンは「失礼します」と言うと、スカーレットの肩を抱き、もう片方の腕をスカーレットの膝裏に通した。


ふわりと浮遊感に襲われ、思わずジョンの肩にしがみついた。


「お嬢様、私がいいと言うまで目を閉じてください。ここを出た先は惨たらしい光景が広がっていますから」


スカーレットはジョンに従って瞼をきつく閉ざした。


地下から上がると、充満した血の臭いが鼻を刺激する。何も見ずとも凄惨な状況がありありとスカーレットに伝わった。

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