第3話

更に半年が経過した。激しく吹雪く真冬の季節が到来した。


スカーレットは未だに牢の中に閉じ込められていた。

ボロボロになった毛布で体を包んでも、厳しい寒さは和らぐことはない。


(寒いわ……温かいスープが飲みたい……)


厳しい寒さは、やせぎすなスカーレットの体を蝕み、更に衰弱させていく。

食事はクズ野菜の入った冷めたスープしか与えられなくなった。


通っていた大学は、いつの間にか退学になっていた。


「貴様に費やす金はない。むしろ、今まで掛けた金を返せ」


父はそう言ってスカーレットを罵倒し、体を踏み躙った。


牢から出す気はないのに返せとは横暴だ。

スカーレットは内心思ったが、父を更に刺激するだけなので口に出すことはなかった。


聖典を読み、神に祈りを捧げる気力は消え去っていった。

粗末なベッドの上に仰向けになり、夢の世界へ逃避するようになった。


(ジョンがわたくしの夢の中にやって来てくれますように)


スカーレットは心の中で祈りながら、瞼をゆっくりと閉ざした。





「――――きゃああああ!」


夢の世界へ足を踏み入れる寸前、けたたましい悲鳴がスカーレットを現実へ呼び覚ました。


(な、何……?)


聞こえたのは女の悲鳴だったが、男の悲鳴も混ざる。それが幾重にも重なり、まるで悪魔の到来を知らせているようだった。

その悲鳴の合唱は、少しずつ減っていき、やがて静寂が再び屋敷に訪れた。


(何が起きたの?)


状況が読めないスカーレットは、息を潜めてやり過ごしていた。


その時、地下に通じる扉の施錠を解く音が耳をついた。

鍵を管理しているのはリチャードだ。

それとも、何者かがリチャードから鍵を奪い去ったのだろうか。


コツ、コツと階段を降りる足音が聞こえてきた。その音は少しずつ大きくなる。何者かがこちらに向かっているのだと推測する。

寒さは麻痺して感じなかったが、得体の知れぬものへの恐怖に体の震えが止まらない。


「誰ですか?」


突然、真っ暗闇に光が入った。

光は太陽の光ではなく、ランタンの灯りだった。


「私ですよ。お嬢様」


その声を耳にした途端、鼓動が高鳴り、胸が切なく締め付けられた。

ランタンの灯りに照らされた顔は、紛れもなく恋焦がれて止まなかったジョンのものだった。


「ご無事で良かった……お嬢様……」


(わたくしは、夢を見てるのかしら……)


赤褐色の髪が揺れた。


「お迎えに馳せ参じました」


ジョンはそう言うと、ランタンを床に置き、恭しくスカーレットの目の前で跪いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る